東京高等裁判所 昭和31年(う)1257号 判決
被告人 向山裕順
〔抄 録〕
O弁護人の控訴趣意第一点について。
よつて按ずるに原審がその第二回公判期日において証人赤津武、高野達夫を取り調べる旨の決定を取り消すにあたり弁護人及び被告人の意見をきかなかつたことは所論の如くであるが、右の証人の尋問はいずれも第一回公判期日において検察官の請求に係るものであるところ、検察官は第二回公判期日において右の証人尋問の請求を撤回したものであることは原審第一、二回公判調書の記載により明白である(なお本件記録によれば高野達夫は転居先不明のため召喚状不送達となり、赤津武は急性肝臓炎のため出頭不可能であつたことがうかがわれる)。そしてかような場合には検察官は当初より右の証人尋問を請求しなかつたと同一に帰するものであるから裁判所は前になした尋問決定を取り消す必要もないものと解すべきである(昭和二十九年五月二十日最高裁判所第一小法廷判決参照)従つて右撤囘の際裁判所が職権をもつて更に右証人を尋問する決定をするか、または当事者が改めてこれが尋問請求をする場合のほかは当事者の意見をきく必要もないわけである。されば原審が被告人及び弁護人の意見をきかずに前記証人尋問を取り消す旨の決定をなしたことはなんら訴訟手続に違反するところはない。
(中村光 脇田 鈴木)